私的名演見学忘備録 :NICK LOWE

ニック・ロウビルボード東京。
東京4回セットの最終。定刻9時半廻って痩身白髪のニックが独りでステージに現る。1曲目「people change」が我々を優しく諭すように唄われる。

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バンド編成でニック・ロウがやってくると聞いてそれは大変だとチケットを取った御同輩は多かったろう。リトル・ヴィレッジはやっぱり自分には半分の愉しみだから。
ブリンズレー・シュワルツが何故にあのように愛おしいのかは英国から米国への憧憬の類いに日本人が憶う部分と重なっているからなのか。
カナダから米国へと向かったあの偉大な連中に憧れてブリンズレーは勇んでNYへとプロモーションをかけたがぱっとせずに酷評されて終わる。150人英国プレスを引き連れて、ヴァン・モリスンの前座としてという大舞台なのに。このエピソードも今となっては(ホロ苦く)微笑ましい。昨晩観て思ったことはニックのやっていることは一貫してブリンズレーから何も変わらない、それでいて性急なリズムはもう必要なくて、可愛くも老獪ともいえる(それは昔からだけど)立ち振る舞いが、皆の胸をノックするのだと。歳をとった今は若くして老成していたと言えるあの彼の嗜好がそれに追いつき、追い越した。小声で全てが伝わる域に位置するSSWであるという再確認であった。

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バンドがとにかく素敵なのだ。ゲラント・ワトキンスは本当に素晴らしい鍵盤奏者であった。会場の一番てっぺんの安い席で観たおかげで、ブギウギのピアノの運指をたっぷりと堪能した。ギターのジョナサン・スコット はデュアン・エディ風のトゥワンギーなソロを連発し、ジョニー・キャッシュによく似たドラムのロバート・トレハーンは唄うようにブラシを擦り、ウッドベースのマシュー・ラドフォードの出で立ちはロカビリーのそれであった。マシュー抜きの3人はまんまヴァン・モリスンのバックだったそうだ。

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まだ今晩が大阪公演なのでちょっと憚られるけど、いくつか。昨晩は2回のアンコールに応え、最後の曲はジョニー・キャッシュの「beast in me」で、ニック・ロウは歌手としても相当に素晴らしいのだと改めて思いしらされる。

それと個人的には「恋するふたり」もそりゃ嬉しかったけど、昨夜一番良かったのは来月出る新譜からの「house for sale」という曲だった。youtubeにありました。

Nick Lowe "House for Sale"
英国でTVを点けると家を買う番組が必ずどこかのチャンネルで在る。このランディ・ニューマン的ともいえる?曲に”peace, love, understanding”という一節を潜り込ませている。
今一度ニック・ロウは ”平和と、愛と、わかりあう事について語ることのどこがダサいんだ” と小さな声で、諭すように我らに向けて唄った。唄いたいのだと判った。