私的名盤購入忘備録:10.1.8

年末から年始にかけて都内近辺のdisc unionを廻ってみた。
車を駆っての小旅行。独り者の時の様に無軌道な海外旅行が出来ない今は、こういう車での遠出がささやかな愉しみだ。

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レコードはだいたい何処に行けばこのくらいの状態のものはこのくらいの値段で手に入ると分かってからは、そこでの価格より安ければ買ってみようとなる。英国盤が何故ここにこんなにあるんだろうという、決して評判のよろしく無い店が西新宿にある。多分イギリス国内でもこれほどの品揃えは無いくらいの。その店価格が自分の上限なのだ。そこより高いものはオークション等でも手を出さない。
今回は勿論年末のセールを狙って安いものしか買わない。むしろ値引率の良いこの時期高価な物を買えばと思うが、我々勝手な客はjazzやclassicなんかに混じってアヴァン・ロックやチェンバー系プログレ名盤なんかが安く転がっていることを夢想して、結局ずっと買えないままなのだ。いまや日本の地方だって全てレコ屋はデータベース化されていてそんな都合良くは転がっていない。結局ebayあたりでよくわかっていない出品者からマト1盤をかすめ取る様な事しか出来ない。まあ需要と供給のバランスが成り立っているジャンルが好きな凡人で良かった。アルゼンチン・タンゴのマニアとかに成らなかった事に感謝するべきなのだ。

で、100円〜500円あたりをメインにUK盤などを買い漁る。画像を改めて見るとなんだこりゃと思う。この3〜4倍くらいこんなもんばっかり買っているわけで。我家は家の構造として上を軽く作っているので、1Fにあるレコード棚は増えれば増える程、下方が安定して耐震に効果的だよとか家内に言ってみるつもりだ。ただthin lizzyのGとrainbowのBが始めたwild horsesのUkマト1Uをクズ箱から100円で抜いたのは褒めてほしい。家内は勿論無視ですから誰かコメントで褒めて下さい。。。


disc unionは関東近県に10店舗以上ある。順番としては用事がなければ足を運ばない所から行ってみた。神奈川方面に車を走らせる。年末で幹線道路以外はすいている。稲田堤、淵野辺などの店舗はLA在住の大学時代の先輩の家を根城として郊外を廻ってレコードを買ってみた事を思い出す。

会社勤めにもかかわらず1週間とか10日とかも、お盆出勤とか勝手にやりくりしてLAとかSFをブラブラしてた事を思うと当時のボスには申し訳なく今思う。安いエアチケットで知り合い宅とモーテルを泊まり歩く。一泊4000円くらいのモーテルはまさにコーエン兄弟タランティーノの映画でのカラっとした猟奇殺人の舞台そのままだ。備え付けのクローゼットを開けるといつも花の様な甘い匂いがするのです。
朝は入れっぱなしの酸っぱいコーヒーと甘すぎるデニッシュがご自由にどうぞとばかりにインド系のキャッシャーのオッサンの前に置いてあるので愛想笑いなどしながらそれを腹に入れて地図片手に車を走らせる。まあだいたいhertzあたりで一番安い車を借りるとfordクラスのセダンだ。こっちだとヴィッツかマーチです。ところが何回か借りるうちに気がついたのはフリーウェイにマーチはきついという事だ。日本と違うルールとして追い越す場合はスピードを上げて先に行くという暗黙の決まり(日本の場合はスピードを落として割り込む)を教えられた。これはいかんとばかりに排気量の大きな車を一度借りた事がある。hertzのアフリカバンバータみたいなオヤジが「トーラスと同じ金額だからこっちがクールだ」とか言って黒光りするマスタングをあてがってくれた。やはり郷に入ればなんとかで、その黒いのはフリーウェイをブンブン飛ばせた。向こうの知り合いにも「スゴイの借りたな。。。」と言われたし、スーパーの駐車場で若い兄ちゃんが荷物持ちながらシゲシゲと見回してるのを見て何かこっちのクールは恥ずかしくなった。

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「この辺りはあまり通るな、できれば迂回して行け、交差点でなるべく停まるな。」と教えられた町並を抜けて行くとスパニッシュの文字がどんどん増えてきた。チカーノが半分以上のLAは全体にブラウン色だと当時は言われていた。そこらあたりを抜けると郊外に出る。バーバンクとかウエストレイクとか、そういう所に行くと保守の香りが異国人にも分かる様になる。valley girlとかレス・ザン・ゼロの世界。確かそのあたりにatomicというレコード屋があった。
店名ロゴがミッドセンチュリー風のその細長い店は、壁出しの高価なレコードが飾られている。渋谷辺りの中古レコ屋も買い付けで立ち寄るのだろう、当時のファイヤー通りとかセンター街脇のお店となんら変わりない品揃えだった。価格も同じだ。シングルの箱からalternative tvを何枚か、thomas leerのインダストリアル盤、virgin prunesのラフトレード盤あたりを抜く。壁のZAPPAやWILDMAN FISHERのオリジナルは高い。だから間違って紛れたようなものばかり抜く。そのうちに、いやいや、何か土産話でもと思い壁の高いレコードを手に取る。feminine complexというガールガレージ〜ソフトロックものの有名盤オリジナル。120ドル。渋谷のファイヤー通りの店と同じくらいの値段だが気が大きくなっているのか思いっきり口角を上げた日本では絶対出来ないイヤラシい笑顔でそれをレジに出す。
まだ当時のLAは探せばレアなものはあった。レコード・サープラスという大きな中古盤屋の2階は50セントのレコードが無造作に膨大な量あった。そこでフル・ムーンの1stのダグラス盤とかローラ・ニーロの1stのmono盤とかが転がっていた。そんなのは渋谷界隈での狂躁の世界での話だから米国人や普通の健全な日本人にはなんら関係の無い話ではあるが、こっちは宝探しの気分でほくほくであった。こういう昔話も出来るし。そういうところで100ドル以上出して壁にかけてあるレコードを買うのはまあモノ好きとしかいいようがないだろう。
大量の1ドルレコードと120ドルのレコードやなんやかんやスーツケースにパンパンに詰めて日本に帰る。埃だらけ傷だらけでjamesとかmichaelとかしらない奴の名前の書かれたレコードを聴いてみる。120ドルのfeminine complexもかけてみる。明らかにディレイではないエフェクターがかかったような音がする。曲全てがユラユラ揺れている。よく見ると盤のセンタースピンドルがずれているじゃないか。我慢して聴いてみるが船酔いみたくなる。オイコラ、これ吐きそうだぞ、返金してくれなどとつぶやいてみても敵は遥か海の向こうのサバービアなのだ。


THE FEMININE COMPLEX「 LIVIN' LOVE」US/ATHENA/1969