LINN SEKRIT DS-I

毎年開催の「東京インターナショナルオーディオショウ」という催しがこの週末、日比谷の国際フォーラムであったので出かけてきた。
目当ては手が出る筈もないハイエンドの新製品ではなく、ピーター・バラカン氏と和田博己氏の講演というか、レコード鑑賞会とでもいうか、そういう物を数百万円の機材で聴いてみましょうというイベントです。なんかバラカン氏の事ばっかり日記に書いてる...。

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ユキム、スキャンテック、リン・ジャパンという3つのブースで各一時間の講演予定に全て覗くつもりだったが、毎年盛況につき、立ち見を余儀なくされる。結局立ち見でELACのスピーカーを扱うユキムと、PCオーディオをメインとしたリンのブースを覗いた。リンブースの椅子席を確保するためスキャンテックはパスした。タイミング的にビートルズのリマスター盤の聴き比べばかりではあったけど楽しめました。
ユキムのブースはスタッフがいまいちで、音量の設定とか自社の製品の良さを引き出す事を忘れているし、ビートルズのイエロー・パーロフォンのモノをステレオで聴かせちゃってるのは突発的な事とさっぴいても、マトリクス番号の事を知らないのか(2枚ある盤の)本当にマト1をかけていたの?とか、オーディオ・ファイルというよりレコ好きとしては、あーもったいないなと思ったのです。

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早めに移動したおかげで座る事が出来たリンの部屋ではDSシリーズが鳴らされていた。
リンのDSはこういう簡易な場でも圧倒的な実像感というか音色である。初めてショップで聴いた時はビックリした。手に入れる事が出来るなら欲しいけども、あの立体感や音場は危険な領域だと思うのだ。スタジオでのマスター音源の100に限りなく近いというデータを聴く行為が果たして音楽の到達点なのかは考え方次第なので。リスニングの到達点ではあるかもしれないけども、後戻りが出来ない世界なので怖い。我ながら青臭いなあとは思いながらデザインの仕事で初めてMacを導入した時と同じ感覚に近いんだろうなと思う。結局使い始めるとあっという間にそれがスタンダードとなってしまう訳なんだけど。
ピーター氏の講演前にAKURATEという150万越のスピーカーで鳴らされるDSのソースを聴いていてそのあまりに濃い世界にクラクラした。オーディオ的な語彙は良く分からないのですが、音響としての生々しさに鳥肌は立ったけども、なにか今までの琴線とは違う所で感動している気がして、この違和感は何だろうと考えてしまった。最初に「ああ素晴らしい音響設計が聴こえてくるなあ」というのが順番違う気がして。自分はナニを聴いているのか自問したりして。リン・レコードの、高音質の音源を配信して自社のDSで聴かせるという導線のつくり方が慣れ親しんだ音楽の入手と違うだけなんだと言い聞かせても。
でも今度はLANケーブルで音質が左右されるとかはちょっとまってと言いたいな(笑。ケーブルの類いでこれ以上悩ませないで欲しいのです。

リンのブースではDSでリップしたビートルズの数曲をピーターは選曲した。LP12も使った。どちらも勿論素晴らしい音が鳴っていた。
今回のビートルズのリマスターは無難なちょうどいい所に着地していると自分は思った。ある意味神の領域を触るのだから、越えては怒られるし、変えても怒られる。達してなければもっと怒られるし。そうなるとあの辺りのアナログライクな着地点に現代風味をほんの少しふりかけるというのは無難ではあるが、そうしか仕様が無い筈だから。一昨年のドアーズはやりすぎだったし、矢野顕子が何かで語っていたがzepの再発アナログ・リマスターを手がけている人間が「もう実際を越えたものをプロダクトとして仕方なく作っている、本当はやりたく無い」みたいな発言があったり(バーニー・グランドマン?)、リマスターというのはロバート・フリップジミー・ペイジの様に演者本人が立ち会わない限りは妄想の産物なのだ、極論。但し当時作れなかった理想を今の機材で作り替えてしまうという事もあるだろう。フリクションの「軋轢」なんかはレックの手によって30年後に違うものになって出た。それが望んでいた事なのかは知らないけど。

閑話休題


とにもかくにも。
ここのブースでも「良い音だねー」とピーター氏は言う。オーディオ評論家では無いのでシステムについては触れないけど、楽曲のエモーションについては頬を紅潮させながら語ってくれる。システムはどうあれ、いい音で何処かに連れてって欲しいと願っているのはいつも、皆、同じなのだ。
だからPCオーディオも、SP盤がLP盤に変わったくらいの世紀のエポックに今立ち会っていて、それに戸惑っているという貴重な体験をしていると思えばいいのだと思う。何年か後にあのころ馬鹿な事思ってたなあと思うのだろう。いや、ずーっと針先を掃除しているかも。



やばいの見ちゃったなー。絶妙な価格設定。
LINN SEKRIT DS-I 定価25万円。プリメインアンプ内蔵。wadiaのipodトランスポート以来の衝撃。