英国日記_4

12月3日、午後

ニューロシスとかブラック・メタルのTシャツが黒いパーカーの隙間から見える若者達に混じって、やっと我々はATP会場であるButlinsに着いた。


雪のロンドンから西に4時間離れたらそこはちょうど寒気の通り過ぎた後なのか、意外に暖かい気候に拍子抜けする。幸運だということである。荷物をシャレー(chalet)という保養施設の部屋に置いて、まずはお茶をする。英国人のDの煎れる紅茶指南を受けながら、タイムテーブルを眺める。
実は日本を離れる直前に愕然とする出演者キャンセルがあった。スロッビング・グリッスルの永遠の凍結というか消滅をHPで知らされる。まず半月程前にジェネシス・P・オリッジの離脱が載った。マネー・トラブルと聞く。残ったコージー、スリージー、クリスの3人でX-TGを名乗ってショウを行うと告知される。ところが開催1週間前にスリージーの訃報という哀しい告知が載る。ここでロング・グッバイTGとなってしまった。
TGを観るという自分の1つの夢が泡となってしまったショックは結構大きい。しかし凶々しくもスタイリッシュで辛辣なこのカルト達はもともと英国のカウンター・カルチャーの亡霊のようなものであったろうから、実存しなくとも仕方が無いと自分に言い聞かせるのだ。

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日も落ちて来て、そろそろ行こうかという事でライヴ会場に向かう。基本3つのヴェニューがあって、アクトが重なりつつショウが進む。
まず最初に観たのはジョセフィン・フォスター。☞ http://www.josephinefoster.info/

圧倒的な声色でマウンテン・ミュージックを唄う。この夜のギターの弾き語りのスタイルはカレン・ダルトンというよりむしろフレッド・ニールを想わせる。

少し散策に出ている間に演奏が終わっていた。後でDに聞いた話だと観客が後ろのほうのバーでお喋りしている事にいちいち文句を言うらしい。途中で演奏をやめたりしたそうだ。そこは米国コロラドから来た彼女が特別そういう環境に適応出来ないとはおもえないのだが、それをこまごまと過敏に反応する彼女が誠に正当なアッチ側の資質を持ったシンガーなのだなと確信する。穿った見方かもしれないけど。客もちょっと引いて、えーと..う..うん...という感じだったんだそうだ(笑。イイですね。

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次、The BERG SANS NIPPLEという2人組を観る。
良くも無く悪くも無く。シルバー・アップルズと同じ編成。フランス人か。日本で言えばバファロードーターみたいな匂いがする。つまりは良くも無く悪くも無くという事です、何回も言うけど。

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Black Diceを観に別のヴェニューに移動。
波形を視覚化するような、音をレイヤー化して波が覆うようなライヴを以前東京で観たけども、この夜はもっとフィジカルなセットというか、ドタバタがずっと続いて少し印象が変わった。

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Growingを続けて観るも、余りにこなれてないというか脱臼するような音像がピンとこなかったなあ。早々に静かな場所を求めて、出る。

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少しライヴの間が空くのでこの間に夕食を摂ろうかと、フードコートを歩く。やっぱり海の側なのでフィッシュ&チップスはおいしいよ多分、との Dの提案で決定。まず基本チップスが主食であるこの国はとにかくイモが大量に盛られて来る。イモ、無駄に腹が膨れて嫌だなあと言ってたらここでは喰うもの無いです。諦めてチップスを食す。
まず最初にこっちでフィッシュ&チップスを食べた時にDがザバザバとモルト・ビネガーをかけるのに驚いた。このビネガーの匂いがどうにも胃液の匂いに思えて全く駄目だったのだが、何回かトライするうちにこれが無いと物足りなくなってしまった。慣れって恐ろしいね。。。

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腹も膨れてうろついていると、当初スロッビング・グリッスルが演奏する筈だった一番大きなヴェニューで、その時間の間TGの音楽を流す、との張り紙を見つける。音楽葬というわけで、PAモニターから大音量で、誰も居ないステージをライティングしながら彼等のアルバムをかけている。皆好きなように踊ったり痙攣したり物思いに耽ったり。お酒も振舞われている。我々もフロアに腰を下ろし"20 jazz funk greates"を頭から聴く。

当時は凶々しい部分ばかりが興味の対象だった高校生は今この歳になってこのアルバムを聴くと、クラウトロックやダビーな音響の影響下の元、ペインティングナイフで直接、大胆且つ緻密に描かれた様なサウンドスケープに改めて驚かされる。ある意味このように”音楽的”な洗練を聴かされ余計に2010年のクリス・カーターの音作りと、"music from death factory"というスローガンが今も有効なのかを確かめる術を失った事を残念に思うのであった。
ラストの葬送行進曲として"discipline"が流れて音楽葬は終わった。

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今回ゴッドスピードは3日間、毎日演奏するらしい。パンパンに詰まったヴェニューからは皆の唾呑む音が聞こえるかのようだ。カラカラと映像のフィルムのロールが回る音は懐かしい光景である。”HOPE"というタイポグラフィが映し出され真っ暗な中少しだけメンバーが照らされる。そこからは2時間、何も変わってないカナダの怒れるバンドの演奏は続く。
何も変わってないと言う事が、7年経っているのにという想いと、首尾一貫、という単語がぐるぐる巡る中あっという間に2時間は過ぎた。思ったより落ち着いている自分が取り敢えず愚鈍なのかそれとも奇妙な安堵の中に居るのか、その時は全然判断がつかなかった。
手持ち無沙汰で取り敢えずメンバーが捌けたステージにカメラを向けてみる事しかすることが思いつかないので、仕方なくそうする事にしてこの夜は終わった。