主に今井次郎さんの事

5/10に観た、灰野さん、ナスノミツル、ドラビデオの一楽さんトリオ「静寂」の演奏について書こうと思っていたが、壮絶すぎて書けない(笑。次みなさん観て下さい。一緒に行きませんか。

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なので(というわけではないが)昨晩のライブについて。


夜7時17分の都バスに乗って5つ目の停留所で降りる。そこの交差点から坂道を上ってスーパーデラックスに向かう。
道すがら夕飯を食べる事にして博多ラーメン「赤のれん」の暖簾をくぐる。ここで腹ごしらえをしてからSDでライブを観るというお決まりのコースであります。
引き戸を開けるとカウンターに白髪の初老のおじさんが居る。おじさんからいくつか席をおいて腰掛け、ラーメンを注文する。待つ間ちらとそちらを見やると、散文詩の様なものがびっしり書かれたケント紙をおじさんは暗記するかの如く凝視しながらラーメンを啜って、日本酒の小瓶をあおっていた。あれ、今井次郎さんだと気づく。自分の注文がカウンターに置かれ、そっちを啜りながら、そうか今晩のアクトの予習にいそしんでいるのだと理解する。一杯やりながら謎の紙をカウンターに散乱させる姿は怪しすぎるな(笑。自分が食べ終わったらお邪魔ながらひと言だけかけてみることにした。
「今井さん」「はい?」
ちょっとだけパンゴの話、あのレコードジャケは素敵だったという話、久下さんと菅波さんと最近やってるトリオがあるんだという話。30秒だけ。今日SD伺いますと挨拶して先に店をでた。

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『バックポーチ地下室』@六本木スーパーデラックス/2011年5月17日
出演: テニスコーツ+今井次郎、New Residential Quarters (NRQ)、 dj sniff

告知には「アコースティックで柔らかな音楽が響きわたる贅沢な一夜。」 とある。まあそうとも言うし全然違うとも言える。

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最初はNRQという初めて観る4人組。ドラムキットの後ろにロバート・クラムによく似た人。中尾勘二氏だ。ギターは湯浅湾でも弾いてる人。二胡も鳴らされる。印象はチャンキー・ミュージック、のようなもの。スムースな退屈さと中尾さんのピリピリした空気が交互に来る。二胡の音色が醸す印象がそうさせるのか、スムースで流れる様な聴こえ方が意図した悪意であれば嫌いではないですけども。自分にはただとらえどころがない、としか思えなかった。

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dj sniffさんが冒頭「今日の告知では”アコースティックで柔らかな音楽が響きわたる贅沢な一夜”とありますが私の演奏はスカムなものなのですみません」的な報告がありました。スカムとは思わない非常に思慮深い、擦りのスキルを誇示するようなものでもない知的な音楽だった。ザワザワと鳴る音像の中にあるビートの解釈が自由度高くて気持ちよかった。C.マークレイが絶対にファインアートの領域を出ようとしない(ように見える)のに対しdj sniffは割とそこを簡単にまたいでいるようにも思える。ターンテーブリストを”美術”と”音楽”と”芸事”の3つで乱暴に括ったとして。

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括りにくい人、今井次郎さんは既にdj sniffの演奏中にも奇声を発したり素敵に酩酊しておられるように見えた。
たまに胸が震える程に美しい旋律を呟くそのすぐ側から乱暴に場を終わらせてみたりする。丁寧に照明の設置をしてその5分後にはシュールな人形劇のよろめきで崩してしまう。
パンゴのベース奏者としての今井さんしかしらなかったがここ何年かで自分の中では今井さんはヌーベルバーグの端役の俳優にすら見えるようになってしまった。革新的だった良き時代のフランス映画は唐突に主人公が犬死にして、そしてfinマークが出て終わる。





テニスコーツと今井さんはなんら違和感無く淡々と劇と演奏とを進め、ヴェルヴェッツを模したという曲では植野さんの思慮深いガットギター演奏をバックに今井さんはウクレレで、ルー・リードそっくりの単音ソロみたいなものを弾いた。
粗野であったり、叙情的であったり、立ち止まったり、考え込んでみたりのこの一連のパフォーマンスが失笑で終わったりしないのは何故か。それは今井さんとテニスコーツの2人の中にも3.11以降の意思のあり方が垣間見える故だろうか。アンチの気分とピースフルを切望する気分がいちいちと見え隠れする。それが当然だと思う。
人形劇は最後にビートルズホワイトアルバムリンゴ・スターが唄う曲のカバーでを幕を閉じた。fin。