私的名演見学忘備録 :The Zombies

50年。ゾンビーズ始めて50年だって。
一口に50年と言っても浮き沈みはあれど相当に大変なものに違いない。ましてや動かなくなる指とか細くなる喉を思えばプロフェッショナルとは過酷な毎日の積算なんだろう。ただし若かりし時にインフルエンスされたR&Bであるとかバッハの衝撃が未だにロッド・アージェントコリン・ブランストーンを突き動かしているのだろうな。

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今回ゾンビーズを名乗った彼等の来日公演は2日観た限り、大変盛況でした。大きなハコで一日より安いハコで数日間は理に適っている。なぜなら自分の様に東京3日公演あればいきおい3日全て行きたい輩は結構居るからなあ。小金持ちの親爺達を狙った良く出来た商法です。まあ頑張って2日間、乗っかる事にした。

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今回、初日で既にロッド・アージェントの体調が悪いのが見て取れた。BB5やホリーズ同様、複雑なハーモニーが魅力でもある”オデ&オラ“期の楽曲は、初日の6曲のみロッドの声が被さり何かスペシャルなマジカルな瞬間が立ち昇った。2日目と3日目はそこから2曲削られていたので初日だけをご覧になった方は幸運でした。そう、老人達の来日公演は悩ましい。普通最終公演が一番盛り上がったりすると思うのだが彼等の場合は違う。だんだんと疲れてしまうから。ブライアン・ウィルソンとかジョアン・ジルベルトとか、初日がベストだったりする(笑。

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初日はアージェント&ブランストーン名義では無いというだけで我々客の期待値が数倍にもなって、諸手を挙げての歓迎という趣があり雰囲気は最高でした。対バンのナッジエムオールが一発目から「僭越ながら」のひと言入れてからクリス・ホワイト作の" This Will Be Our Year"のカヴァーをかます。ナッジ最高にグッジョブ!
で、自分の前にもひとつ対バンのエイトの若者衆の親御さん達が陣取っていたみたいで、ゾンビーズを見学中"2人のシーズン"の途中で、あ!これ、CMのあの曲!?みたいになって、え!この人達そうなの!?みたいなちょっとした騒ぎがあって微笑ましかったです。

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コリンは未だ高いキーにもトライしており、最近観たオヤジボーカリストだとコロシアムのクリス・ファーロウに次ぐ頑張りであった。そういう意味ではミック・ジャガーやジョン・フォガティは凄いわけです。今回ベースはアージェント、アリスタ時代キンクスのジム・ロッドフォードが来日しており、ドラムは息子さんだそうです。ロッドはジムのいとこらしく、我々はファミリー・ビジネスなんだと言ってました(笑。ギターのトム・トゥーメイのサポートも達者で素晴らしかったがジョン・ヴェリティがもし来ていたらと想像する。渋すぎるね。というか、それまんまアージェントか(笑。
まんべんなくキャリアを俯瞰した様な選曲でそれぞれ思い入れが違う客層にもキチンと対応していた。正式には2枚しか無いゾンビーズ。「Begin Here」の”サイレンスなビート・グループ”という趣の録音が他とは一線を画した品の良さというか個性となっていたのは、ロッドの正式に教育を受けたと思われる鍵盤と、コリンの湿度の高い特別な声色に負う所が大きい。それと今回は来ていないクリス・ホワイトのコンポーザーとしての能力、それをもって初期のゾンビーズの理知的な狂躁という事だと思う。1曲目のロードランナーのカヴァーもプリティ・シングスの猛々しいそれとは違う。陰影の深い、オリジナルな高揚感。「Begin Here」を憶う印象はそれである。

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シングルまで網羅すると所謂GSとリンクするゾンビーズも今回しっかり披露される。でもやっぱり期待したのは数奇な名盤「Odessey And Oracle」の脆く儚いポップソング群。中盤にそれは6曲立て続けに演奏された。サージェントペパーズの隣のスタジオで録音されたこの2ndはリリース時に既に"ザ・ゾンビーズ"は存在していなかったとかなんとか。最初の(?)解散後であった。メロトロンがたおやかに漂うポップな楽曲群はサイケに処方される幻想性や楽天性、虚無感の類いは極力少量に調合された、エヴァーグリーンな、マスターピースな、愛すべき表裏、数十分間である。キラーな"独房44"が最初に演奏され、まだ初日はロッドがコーラスを付ける事が出来たので"エミリーに薔薇を"、続いてクリス・ホワイトの曲ですとコメントがあって"This Will Be Our Year"が演奏される。

なんというメロディ!なんという転調!なんという多幸感!なんという....キリが無いくらいの謝辞を客の皆が思い浮かべたろう。2分足らずの魔法の時間。あまりにあっという間に終わるので、3日目の演奏はテンポを落として彼等は演奏したのだ!

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次いで、コリンのソロからの"I Don't Believe In Miracles”やアラン・パーソンズ・プロジェクトでの唄入れ曲までやったならば、ロッド率いたアージェントも...と思ったら本当に"Hold you head up"を演奏しはじめた。多分に諸外国では認知されたこのヒット曲はこの下北沢ではやや分が悪い。思うに欧米でのこの曲の扱いはスポーツ観戦でのチアアップ曲のようなもんでははなかろうか。"伝説のチャンピオン"がサッカー勝者のカップ贈呈時にかかるあの感じ。まあアージェント、大好きですから自分は全く問題無し。ロッドの鍵盤がもうプログレのそれとなって脳の別の扉を刺激される。そうこうしてたらアンコールで来た!大大好きな曲、“God gave rock and roll to you" 笑ってしまった!

知り合いからダビングしてもらった英国BBCの「オールド・グレイ・ホイッスル・テスト」のこの映像を何度見た事か。まさかゾンビーズ名義でこの曲が聴けるとは。ラス・バラッドはどうしているのだろう。映像では70年代らしくロッドの衣装がフリフリで、エンジェルのグレッグ・ジフリアあたりはアージェントも参考にしていると思うなあ。ここでベースを弾くジム・ロッドフォードも目の前に居るんだと思うと急に感慨深い気持ちがどっと湧いて来て、ゾンビーズを観に来て、アージェントを観てしまった!という気持ちにシフトしてしまった(笑。サビを唄えとメンバーは煽るのだが、いや、そんなに日本ではヒットしてないので無理だよ、と思いながら精一杯頑張って唄いました。気を使わせるなあ(笑。ブレイクの後のアルペジオのギターもトムは完璧に弾きこなし、半分プログレなハードロックの迷曲は大円団となる。
その後に最期の曲ですとアナウンスして「Begin Here」から"summertime"。ハモンド叩きまくった後にガーシュイン。その落差に戸惑いながらもコリンが奥行きの深い唄声を聴かせると場は宴の終焉なのだという事を教えられ、ここにいた皆は名残惜しくも切ない気分になってしまった。

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書きたい事はまだ沢山ある。
3日目、喉が痛いのだろう、声が裏返るロッドが頑張って進行する。声が出ないのでいつもの倍、ハモンドを廻します、いや弾き倒しますと宣言したその日のインタープレイは凄かった事。
対バンのエディ・レジェンド・ストーリーがフロントアクトとはこういう事だとバッチリ提示して嵐の様に去って行った格好良さ。完璧な様式美だったMAD3を終わらせ、齢40を越えたエディさんがやってみせた事はゾンビーズの革新的だった多面性をガレージの方向から炙り出すという難易度の高いものだった。
あとブランストーン氏は全く進行とかが苦手な、少し浮世離れした印象の、しかしナイーブを声色で書き記す事が出来る特殊な能力のシンガーであるという事。スティーヴ・ハケットとかデイヴ・スチュワートに呼ばれるとかキーツであるとか、アランパーソンズプロジェクトしかり、あの喉ではないと駄目なので彼は所望されるのだという事。それは勿論多大な努力もあるだろうがやっぱり何か魔法が備わったタイプの唄い手だと改めて思った。